杉樽物語

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杉樽と修理と仕事師

■杉樽の危機

明治元年の創業以来、155年間働き続けてきた赤間醸造の杉樽... 麹菌・酵母菌・乳酸菌の棲みついたその樽の中で呼吸している「もろみ」を蔵人が櫂(かい)で撹拌し、2年間の歳月をかけて熟成させて育てます。
杉には古来より天然の防腐作用、水分調節作用があり、生きているもののゆりかごとして最適な性質をもっています。特にお醤油は麹菌が棲みついて「樽ぐせ」というものを作るので、お醤油は麹と杉樽と愛情という三位一体で作っていくといっても過言ではありません。
   赤間醸造はこの杉樽での熟成ということに強くこだわってきました。
しかし長い間、特に移転をきっかけに緩みや痛みが激しくなっていました。杉樽を作る職人さんはもちろん、修理する人さえ全国に数えるほどになってしまった現在です。四代にわたって守ってきた当蔵の財産ともいえる杉樽、厚さ45ミリの国産杉という今ではもう二度と作れない杉樽を何とか使い続けたいと苦慮していました。
この度、縁があって(いろいろ苦労がありましたが)、大阪の製桶所よりベテランの杉樽職人、Wさんに来ていただき、泊まり込みでの点検・修理をお願いすることになりました。

■仕事師参上...素人は余計なことをするな!!

いよいよ大阪の製桶所から杉樽職人Wさんが合わせて5丁の樽を修理するため、一泊では不可能なので、前後三回に分けて来社されることになりました。 まず、今後の修理のため、直径2.5メートル、高さ2.5メートルもの樽を高く持ち上げる作業、次に竹の帯(箍:たが)の緩みを締め直し板の隙間から「もろみ」が漏れるのを防ぐ作業をすることになりました。
平成14年の工場移転に伴う杉樽の移動で今まで問題がなかった杉樽から「もろみ」が漏れだしたり、ひどいものはある日突然底板が真中から割れてV字型になったりしました。それでなくても当蔵でも杉樽の老朽化で数が減っていき、仕込にも困るようになっていました。
その時、素人考えで応急処置をしようと漏れる杉樽にコーキングをしたのですが、このコーキングをはがすことから作業が始まりました。簡単にはがすという言葉になりますが、連日猛暑の上、深さ2.5メートルの樽の底です。弊社の社員が扇風機を上から吹きかけながら、1日ががりではがす大変な作業になりました。コーキングをしても結局漏れていたので、何につけ素人考えでよけいなことはしないほうが良いです。コーキングをはがして元の姿に一旦戻しジャッキで樽を持ち上げ下に潜り込みます。ペンライトで照らしながら漏れの原因を確かめていきます。腹筋や腕の筋肉が痛くなり汗がふきだし、見ているだけで大変な作業です。
さて、漏れの様々な原因に応じて手当をしていきます。
漏れの原因に箍の弛みがある場合は、巻いている唐竹の箍が生かせるものは生かし、死んでいる箍はバッサリ落としていきます。Wさん曰く、「生きて用をなしている箍は澄んだ音がします。ほら!ダメな箍は音が違います。」。何だか人間のことも言われているようで耳が痛いです。落とした跡に、また必要な個所に、かねて用意したステンレス特注品の丸棒で締めていきます。この丸棒で杉樽がギュッと締まります。本当は竹の箍で締めたいのですが修理して締める時に竹がほぼ手に入りません。
その他状況に応じてバチあて、槇はだ込み、シリコーンの注入など様々な手当てをしていきます。

■閑話休題

ここでちょっと、うんちくの時間 槇はだ込みとは槇の木を鰹節の様に削って樽の板の間に詰めていく作業です。槇は水や湿気に強く、長期にわたって変色しにくいうえ、腐りにくいという特性があります。槇はだと呼ばれる木の削り節は水漏れ防止用の詰め物となります。この作業は木造船の修理では絶対に必要なもので、古くなった船の板はだんだん隙間ができていきますがこの板の間を埋めるのに槇が使われるのです。

■ここまでしなくては万全ではない

さてこうした作業を繰り返して補修が完了したら、樽の「湯ごもり」を行います。 仕込前にすっかり乾いてしまった杉の板に水分を行き渡らせる必要があります。沸かしたお湯をたっぷりと杉樽に張り、上からシートをかぶせて紐でくくり、水蒸気が万遍なく杉板のすみずみまで染みて樽がしっかり張るようにするのです。水は漏れなくてもお醤油の「もろみ」を入れると漏れることがある(!!)というのはこの業界の常識なので(比重の違いでしょうか?)なかなか油断できません。しかし必要十分な湿気を含んでパンッと張り、箍できっちり締められた樽はもう安心です。

■そして...ちょっと感傷的

疲労し痛んだ樽が癒えて元の元気な樽になり再度「もろみ」を入れて働いてもらえるいうことは(お金のことはとにかく忘れて…)何とも言えず嬉しいものです。
蔵のあの隅の樽が空ではない、「もろみ」がたっぷり入っているその様子を見ると、自然と顔が弛んできます。さあ頑張っていい麹を作ろう、2年後においしいお醤油を搾るのだと気持ちも引き締まります。
時はちょうど秋の始まり。当蔵も天然醸造のため仕込みのシーズンに入ります。物を作る苦労と厳しさがまた始まります。喜びもまたあります。 日々の精進が良い結果となって現れればこんな嬉しい事はありません。 本当に念願だった樽の補修を始めて、まだまだ時間がかかるのでこれは序の口ですが、ちょっと肩の荷を下ろした気がします。何かにつけて時間のかかる生業、ひるまず倦まず、弛まず、ひたむきに歩んでいかなくてはなりません。
 おいしいお醤油のために。
わが社の技術や手法や在り方を次の世代のために。


 

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